結婚は復讐の為だった…いつのまにか? …
なんで俺が、こんな気持ちにならなくてはならないのだ?
あいつは母さんを殺した奴だ。
熱があろうと何であろうと、奴隷として働くのは当然じゃないか!
そう思う中。
聖はいつも、玄関まで見送りをしてくれる柚香の顔が思い出された。
いつも俯いている柚香だが。
「いってらっしゃいませ」
と言う時だけは、いつも聖の顔を見てくれる。
目を合わせないようにしている聖だが、時々チラッと目が合う時がある。
いつも柚香の目は悲しみで揺れている…。
人を平気で殺せる…そんな目はしていないように、聖は感じていたが、それを認めないようにしていた。
なんで母さんを殺したんだ! 母さんを殺して平然と生きて来た…そうだろう?
いつも俺が不味い飯だ! と作ったものをシンクに投げ捨てても、柚香は何も言わず謝るだけだ…。
リビングに戻って来た聖は、なんとなくお腹が空いたような気がして。
柚香が作っておいてある煮魚を一口食べて見た。
冷めているが煮魚の味はなんだか懐かしいような気がした。
この味…俺が知っている味だ…。
ふと、シンクを見ると引き出しからノートがはみ出ているのが見えた。
聖はシンクの引き出しに歩み寄って、ノートを取り出した。
ノートは古くなっていて、随分とつかわれているようだ。
中を開くと、料理のレシピが沢山書かれている。
だが、その書かれている文字に聖は見覚えがあると思った。
パラパラとめくってゆくと。
「これは…」
ハンバーグのレシピの部分を見て、聖は驚いた。
そこには、聖が好物である事が書かれていて、中にチーズを入れるとご機嫌だと書かれていた。
(はい、聖ちゃん。ハンバーグには、チーズを入れてあるわよ。今日のチーズは伸びるチーズでーす)
昔、愛香里が生きている頃に、手作りハンバーグを作ってくれるときはいつも聖を喜ばせるためにチーズを入れてくれていた。
苦手な人参も刻んで入れたら食べてくれる。
と、小さな文字で書かれていた。
「なんで…俺の好みを知っているのだ? しかも、母さんがよくやっていた事が書かれている…」
他にも沢山書かれているレシピの中には、聖がどうしても苦手な物も書かれていて、どうすると食べてくれるのかも書いてあった。
「あいつ、これを見ながらいつも作っていたのか? 」