結婚は復讐の為だった…いつのまにか? …

 なんで俺が、こんな気持ちにならなくてはならないのだ?
 あいつは母さんを殺した奴だ。
 熱があろうと何であろうと、奴隷として働くのは当然じゃないか!
 
 そう思う中。
 聖はいつも、玄関まで見送りをしてくれる柚香の顔が思い出された。

 いつも俯いている柚香だが。
「いってらっしゃいませ」
 と言う時だけは、いつも聖の顔を見てくれる。
 目を合わせないようにしている聖だが、時々チラッと目が合う時がある。
 
 いつも柚香の目は悲しみで揺れている…。
 人を平気で殺せる…そんな目はしていないように、聖は感じていたが、それを認めないようにしていた。

 なんで母さんを殺したんだ! 母さんを殺して平然と生きて来た…そうだろう? 

 いつも俺が不味い飯だ! と作ったものをシンクに投げ捨てても、柚香は何も言わず謝るだけだ…。

 
 リビングに戻って来た聖は、なんとなくお腹が空いたような気がして。
 柚香が作っておいてある煮魚を一口食べて見た。

 冷めているが煮魚の味はなんだか懐かしいような気がした。

 この味…俺が知っている味だ…。
 
 ふと、シンクを見ると引き出しからノートがはみ出ているのが見えた。


 聖はシンクの引き出しに歩み寄って、ノートを取り出した。

 ノートは古くなっていて、随分とつかわれているようだ。
 中を開くと、料理のレシピが沢山書かれている。
 だが、その書かれている文字に聖は見覚えがあると思った。

 パラパラとめくってゆくと。

「これは…」

 ハンバーグのレシピの部分を見て、聖は驚いた。
 そこには、聖が好物である事が書かれていて、中にチーズを入れるとご機嫌だと書かれていた。

(はい、聖ちゃん。ハンバーグには、チーズを入れてあるわよ。今日のチーズは伸びるチーズでーす)
 昔、愛香里が生きている頃に、手作りハンバーグを作ってくれるときはいつも聖を喜ばせるためにチーズを入れてくれていた。
 
 苦手な人参も刻んで入れたら食べてくれる。
 と、小さな文字で書かれていた。

「なんで…俺の好みを知っているのだ? しかも、母さんがよくやっていた事が書かれている…」
 
 他にも沢山書かれているレシピの中には、聖がどうしても苦手な物も書かれていて、どうすると食べてくれるのかも書いてあった。

「あいつ、これを見ながらいつも作っていたのか? 」
< 10 / 80 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop