結婚は復讐の為だった…いつのまにか? …

「もういいから帰れよ! ちゃんと着きそうから、ここに来たんだから」

 やれやれ。
 軽くため息をついた聖龍。

「そうか、そこまで言うなら今夜は帰るよ。ここは病院だから、安心だしな」

 言いながら立ちあがった聖龍。
「じゃあ柚香ちゃん、また来るから」
 それだけ言うと聖龍は病室から出て行った。

 柚香は俯いたまま黙っている。

「…何も考えなくていい。そのまま、休んでいろ」
 
 え? と、柚香はチラッと聖を見た。

「す、すまなかった…体調の悪さに気が付かなくて…」
「いいえ…」

 答える柚香の声に力がない。
 その声に聖は何故か罪悪感を感じた。

 今までこんな気持ち感じた事はないけど…。
 
 聖は俯いている柚香をじっと見た。

 結婚した当初より、随分と痩せている…。
 鎖骨も出てしまい、今にも倒れそうなくらいだ。

 手も骨ばっていて…。

 俺は本当に、ここまで痛めつけたいと思っているのだろうか?

「あの…。あのさ…俺と…離婚したいか? 」
 
 え? 驚いた目で聖を見た柚香。

「…お前がそう思っているなら…と、思って…」
「いいえ…今は、そう思っていません…」
「今は? 」
「はい。今は、一生傍にいるつもりです」
 
 一生傍にいる。
 その言葉に、聖は安堵感を覚えた。
 
 
「あのさ…」

 ベッドの傍にある椅子に腰かけた聖は、じっと柚香を見つめた。

「俺、もしかして何勘違いしているのか? 」
「勘違い? ですか? 」
「…お前、俺の母さんと親しかったんだろう? 」
 
 ぎゅと布団を握りしめた柚香。
 その手は震えていて、何かに怯えているようだった。

「あのさ…もしかして、お前は母さんを殺した奴を見たのか? 」
 
 ブンブン! 
 俯いていた柚香が強く首を振った。

 その姿を見た聖はズキンと胸が痛むのを感じた。

 もしかして…あの時に俺が見たのは…。
 母さんが殺されているのを見て、恐怖で固まっていた柚香だったのか?

「…何も知りません…」
 そう呟いた柚香はぎゅと口元を引き締めてしまった。

 俺が勘違いしていたとしたら…
 俺は…

「すまない、今はこの話はやめよう。…えっと…」
 枕元に置いてある時計を見た聖。
 時刻は20時を回ろうとしていた。
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