結婚は復讐の為だった…いつのまにか? …
「こ、こんな時間だけど。何か、食べたい物とか飲みたい物はあるか? 」
「いえ…どうぞ、お気使いなく…」
「そうか…。じゃあ…寒くないか? 」
「大丈夫です…」
そう答える柚香だが、着ているのは病院から貸し出しされている病院着だった。
「少しだけ、待っててくれるか? 」
そう言って聖は病室を出て行った。
柚香はどうしたのだろう? とキョンとした目を向けていたが、フッと小さく笑いを浮かべた。
「…ようやく…本当の自分に、気が付いてくれましたか? 」
そう呟いた柚香は、メガネの奥で小さく微笑ましい目をしていた。
病室の外に出て来た聖は、携帯電話を取り出して電話をかけた。
「…あ、森沢さん。悪いんだけど、今からメールを送るから用意してもらえる? …ああ、先方には俺が連絡しておくから。…すまないけど、頼むよ…」
電話を切った聖は森沢にメールを送った。
その様子を、帰ったふりをした聖龍が遠くから見ていた。
「お前の様子を見させてもらう。…柚香ちゃんは、愛香里の忘れ形見と同じなんだからな…」
聖の様子を見ながら聖龍は帰って行った。
しばらくして。
聖が病室を出て30分ほど経過する頃。
柚香がウトウトとしていると、聖が病室へ戻ってきた。
「ごめん、戻ってくるのが遅くなって」
両手に大きな紙袋を手にして戻って来た聖。
いったいどうしたのだろうか?
柚香はちょっと驚いた顔を向けていた。
「これ、着てくれないか? 」
紙袋から聖が取り出したのは、冬用のパジャマだった。
フリースでピンク色の可愛い花柄模様の上下のパジャマに、モコモコの暖かそうな白いカーティガン。
「病院着は寒い。これを着てくれ」
驚いている柚香だが、素直に受け取った。
「有難うございます…」
「俺、後ろ向いているから」
くるっと背中を向けた聖。
柚香はなんとなく笑えたが、言われた通り着替え始めた。
「もう…いいかな? 」
チラッと振り向いた聖。
「はい、着替え終わりました」
言われて振り向いた聖。
俯き加減で大きな眼鏡で、髪はボサボサの柚香だが。
いつも地味な色を着ている所を見ると、暗くてさえない女性にしか見えないが。
明るい柄のパジャマと、優しい感じのカーティガン姿を見ると上品な女性に見えた。
聖は思わず小さく息を呑んだ。
こいつ…こんなに上品だったのか?
こんな姿を見ていると…とても人を殺すようには見えない…。
そう思った聖だったが、まだ、自分の本当の気持ちがどうなのか分からないままだった。
その晩は、とりあえず聖は柚香の傍で付き添う事にした。