結婚は復讐の為だった…いつのまにか? …

 愛香里を失ったショックで、聖龍はよく寝込むようになり仕事と家庭を両立する事に精一杯だった。
 それでも聖に淋しい思いをさせてはいけないと、早く帰って来て休みの日には一緒に遊んでくれていた。
 妹の香が帰国してくる話も出ていたが、聖龍一人では2人も面倒見る事は難しいと判断され、そのまま香はアメリカの祖父母の家で生活を続ける事になった。

 聖はずっと警察にも柚香の事は黙っていた。
 
 それは…。
 自分の手で柚香を葬ってやると決めているからだった。

 今はまだ小さくて力もないから、何もできないけど、大人になったら敵を討つ!
 そう思って聖は、愛香里を失った悲しみを怒りに変えて生きる決意をした。

 聖が小学校を卒業する頃に、河野原財閥は急に売りに出された。
 なんでも党首が亡くなり続いて妻もなくなったと、風の便りで聞いた聖。
 両親が亡くなった…もしかして、娘が殺したんじゃないのか? と、柚香を悪者にして、ますます憎むようになってしまった。


 聖が中学になった頃から聖龍は元気になってきて、寝込む事も少なくなり、仕事と家庭の両立も苦にならなくなってきた。
 しかし仕事が非常に忙しくなり、よくアメリカ支社に呼ばれる事も多くなってきた。
 聖は学校の都合もあり、一緒についてゆく事は少なく、広い屋敷に一人残される事も多かった。

 高校生になった聖は、変わらず柚香への復讐を胸に生き続けていた。
 小学校からずっとバスケは続けていた聖。
 友達も沢山できて、試合にも出る事が多くなりレギュラーに選ばれている聖は大忙しの日々を送っていた。

 そんな時。
 試合の帰りに聖が信号待ちをしていると、急に誰かに背中を押されて道路に放り出された!
 猛スピードで走って来たトラックに引かれる!
 そう思った聖だったが、ふわりと体が宙に浮かんだような気がして…。
 気づけば無傷で歩道側に放り出されていた。

 トラックの急ブレーキの音が聞こえたのを覚えている。
 だが、聖は怖くて詳しい状況を見る事が出来なかった。
 救急車とパトカーがやってくる音を、茫然と聞いていただけで、駆けつけた警察官に怪我はないかと聞かれて、怪我はありませんと答えたのは覚えている。
 その時にチラッと見えたのは、ストレチャーで運ばれてゆく血まみれの誰かだった。
 
 急に突き飛ばされたけど、また誰かに突き飛ばされ無事に助かった…。
 でも、突き飛ばしたのは誰なのか判らず、また、聖を助けてくれたのも誰なのか分からないままで。
 命を助けてくれた恩人は誰なのかを、聖はずっと探していた。
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