結婚は復讐の為だった…いつのまにか? …
10時を回る頃。
駅前の時計台の前に柚香が、誰かと待ち合わせをしているようで一人立っていた。
シックなスーツに身を包んで、腕時計を気にしている柚香。
時計台から10時を知らせる鐘が鳴ると、何か意を決したかのような顔をしてそのまま歩き出した柚香。
歩いてきた柚香はオフィスビルの一角にある、個人ビルへと入って行った。
ビルに入ってくると、そのままお手洗いへ向かった柚香。
手洗い場の鏡の前に来ると、鞄からブラシを取り出しボサボサの髪を綺麗に整え、綺麗に結って後ろで束ねた。
そして書けて見た眼鏡を外して鞄の中しまった。
ハッキリと顔が判る柚香は聖龍と似ている。
特に目元がそっくりで、口元は優しい女性の感じで。
いつものボサボサの髪では分からないが、こうして見ると聖龍と愛香里のどちらにも似ている柚香。
お手洗いから出て来た柚香は、受付へと向かった。
受付で話を済ませた柚香は、待合室で待つ事にした。
暫くすると。
エレベーターから一人の男性が降りてきた。
シルバーのスーツに身を包んだスラっとした長身の男性は、推定年齢が40歳前後に見える。
胸に弁護士のバッチをつけていて、柔らかそうなブラウンの髪を短髪にしている姿は、爽やかなスポーツマンのように見える。
そしてよく見ていると、どこか聖に似ている感じがする。
足音に気づいて柚香は立ち上がり振り向いた。
「やぁ、久しぶり柚香」
歩み寄って来た男性が、ニコっと柚香に笑いかけた。
「お久しぶり…お兄ちゃん…」
そう。
この男性は柚香の兄・聖一郎。
両親を亡くして、親戚の家に引き取られ、自分の力で大学へ進学して一度は検事の道を選んだが弁護士へ転身した。
そして弁護士になった時に、雇ってくれた事務所の社長に気に入られ養子縁組をして。
現在は秋田誠一郎(あきた・せいいちろう)になった。
このビルは秋田法律事務所の自社ビル。
今ではアメリカと日本を行き来して、聖一郎は大忙し。
「結婚したって聞いたけど、どうなんだ? 」
向かい側に座って話し始めた柚香と誠聖一郎。
「ええ、順調にやっているわ」
「そうか。詳しい事を教えてくれないから、心配していたんだけど」
「ごめんなさい、話すタイミングがずれちゃって。お兄ちゃん、忙しいからなかなか捕まらないし。やっと、日本に帰って来たって聞いたから連絡したの」
「ごめん、ごめん。それで、柚香の結婚相手って誰なんだ? 」
柚香は口元でちょっとだけ笑いを浮かべた。
「私の結婚相手は、宗田聖。あの宗田ホールディングの副社長よ」
え?
聖一郎は驚いた目をして固まってしまった。