結婚は復讐の為だった…いつのまにか? …
 
 部屋に入ると鞄を置いて、ジャケットを脱いだ聖は入浴の準備をして部屋を出た。



 お風呂に入りながら冷静に思いかえしてみると。
 あの時、柚香は驚いて茫然となっていると言うより、恐怖で動けない状態だった…。
 連れて行った貫太郎も、その場を見せてはいけないように連れ去って行った。

 
(柚香は、あれ以来ずっと口をきかなくなっていたよ。でも、宗田さんに出会って交際が始まってから。柚香は、笑うようになった。 アメリカにいた時も、心から笑う事はなかったようです。あの事件の事は、何も覚えていないってその時の事だけが記憶から抜けているようで…)

 悲しげな目をして聖に話したのは、聖一郎だった。


 実は今夜は聖一郎に会っていた聖。
 柚香を結婚するとき、柳田家の両親には挨拶をしたが聖一郎には挨拶をしていなかった事に気づいた聖は、聖一郎の事務所を訪ねた。

 突然現れた聖に驚いた聖一郎だったが、柚香と結婚したばかりの頃の聖とは、目の色が違っていてなんだか変わったような気がした。


「あの…教えて下さい」
 シティーホテル1階にあるカフェの個室。
 ソファ席で向かい合って座った聖と聖一郎。
 
 こうして見ていると、 まるで兄弟のように見える聖と聖一郎。

「俺。実はずっと、柚香が俺の母親を殺した犯人だと思い込んでいました。でも最近、ある場面を思い出したのです」
「ある場面? 」
「見知らぬ女の子が、手にナイフを持って歩いている姿です。しかもうちの庭で」
「どんな女の子? 」
「ごく普通に見えるけど、ちょっと独特の雰囲気があって。狂っているような感じがする女の子で、俺と同じくらいかな? と思えると年頃の子」

 聞きながら、聖一郎は珈琲を一口飲んだ。

「…君の家の近くに、金田理子が住んでいたの知ってる? 」
「え? いえ知りません」
「まぁ、当時は別の苗字で金田理子はあの事件の後すぐに両親が離婚。そして母親は不倫していて男と同棲を初めて、半年後に再婚している。その再婚相手が金田さんで、彼女は金田理子になっている」
「そうだったのですか…」

 一息ついた聖一郎は、手帳を取り出し一枚の写真を見せた。

 その写真は、聖が何となく思い出した女の子と同じ少女が写っていた。

「これは、金田理子の幼少期の写真だ」
「これが…金田理子? 」
「今は整形しているから、別人のようになっているが。骨格はそのままだ。家庭環境はとても悪く、父親も母親も不倫ばかりして子育て放棄していたそうだ。食事の用意もしてもらえず、お腹が空いている理子を見て近所の人が食べさせてあげていた事もあったが。理子は親切にすると、執拗につきまとってくる。相手の都合も考えずに、ずっと居座ろうとしたり。断ると、ものすごい癇癪を起して大変だったようだ」

 写真に写っている理子。
 子供ながらに暗い目つきで、誰かを恨んでいるような目をしている。
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