結婚は復讐の為だった…いつのまにか? …
その夜。
聖は女子社員に大切な相談があると言われて、シティーホテルへやって来た。
1階にあるカフェで話を聞いていた聖。
話の内容は大したことじゃない様に思えたが、本人にとってはとても重要な悩みの様だ。
話し込んで1時間過ぎたら、スッキリしたと言ってカフェを出た女子社員と聖。
ホテルのロビー近くにやってくると、女子社員は気分が悪そうな顔をした。
「副社長、すみません。ちょっと気分が悪いので、今夜はこのホテルに泊まります」
「そうなんだ。じゃあ、俺は先に帰るから」
「部屋まで送ってもらえませんか? ちょっと、歩けないので」
聖の傍に来て倒れそうになった女子社員。
「部屋までお願いします」
そう言いながら差し出してきたカードキー。
それを見た聖は違和感を感じた。
しかし、このまま放置していく事はできないと思い、言われた通り部屋まで送る事にした。
エレベーターで向かったのは最上階のスイートルーム。
1泊50万以上と言われている、まるでお城のような部屋。
カードキーで部屋の鍵を開けた女子社員。
「すみません副社長。ベッドまで手を貸してもらえませんか? 」
そう言われると聖は小さくため息をついた。
「ごめんなさい、それはできません」
「え? どうしてですか? 」
「どうしても、そこから歩けないのでしたら。ホテルの従業員を呼びます」
女子社員は困った目を浮かべた。
「すみません。俺には、愛する妻がいます。妻以外の女性と、ホテルの中に入る事なんで絶対にできません。今、こうしている時間も妻が待っていますので。これで、失礼致します」
それだけ言うと、聖はエレベーターに乗り込んだ。
「ちょっと、待って下さい! 」
追いかけようとした女子社員だったが、エレベーターの扉が閉まってしまった。
そのままエレベーターで1階へ降りて行った聖。
聖がエレベーターから降りてくると。
ロビーに聖一郎がいた。
聖は聖一郎に気づいて歩み寄って行った。
「お疲れ様。ちゃんと振り切って、戻って来たんだね」
聖一郎がそう言うと、聖はちょっと苦い笑いを浮かべた。
「…有難うございます。教えて下さって」
「いや。君が本気だって、俺にも分かったからね」
苦い笑いを浮かべていた聖が、真剣な眼差しを聖一郎に向けた。
「お兄さんにも、俺は謝らなくてはなりません。大切な妹さんに、酷い事をしてしまったので…」
「もう気にする事はない。君は、俺の大切な弟だから。もうとっくに許しているよ」
「…俺なんかが、弟でいいのですか? 」
「なんで、そんなこと言うんだよ。たった一人の、血を分けた兄弟じゃないか。こんな形だけど、実の弟と再会できて俺は最高に嬉しいよ」
胸がいっぱいになり、聖は何も言えなくなった…。
「さっ、早く帰れよ。愛する妻が待っているだろう? 」
「はい…本当に、有難うございます」
深く頭を下げて、聖はそのまま帰って行った。
聖一郎はフッと笑いを浮かべた。
そのままくるっと振り向いて、歩き出した聖一郎。
聖一郎が歩いて行くと、その先に…郷司がいた。