結婚は復讐の為だった…いつのまにか? …
「…約束のあれは、持って来てくれましたか? 」
郷司の傍に来ると、聖一郎は足を止めた。
「はい…」
郷司は小さなチップを聖一郎に渡した。
「確かに」
チップを受け取り、鞄に閉まった聖一郎は、代わりに分厚い封筒を取り出し郷司に渡した。
「そのお金で、もう一度真面目にやり直すといいと思うよ。宗田ホールディングは、世界一優しい企業だから何とかなると思うから」
「そうします。有難うございました」
去り行く郷司を見送りながら、聖一郎は小さく微笑んだ。
聖一郎と分かれて聖はまっすぐ家に戻って来た。
家に帰ってくると真っ先に部屋に向かった聖だったが、柚香の姿はなかった。
部屋の中がいつもよりガランとしているような気がして電気をつけて見ると、いつもと変わらない風景であるが、クローゼットの中にあった柚香の着替えなどがなくなっていた。
焦った気持ちを抑えながらリビングへ降りてゆくと、夕食を食べ終えた聖龍がいた。
「お帰り、聖。今日は遅かったんだね」
「柚香は? まだ帰ってないのか? 」
「ああ、まだ帰って来ていないようだが」
「電話してもでないんだ。もしかして、なにかあったのだろうか? 」
「いつもは、このくらいの時間には帰ってきているが。珍しいな」
ピピッ。
携帯電話が鳴り、聖は慌てて電話に出た。
「もしもし? 」
(…あの…)
「柚香? どうかしたのか? 」
電話をかけながら、聖は玄関へ向かった。
「どうしたんだ? まだ仕事なのか? 」
(いえ…。ごめんなさい、もう…家には戻りませんので…)
「どうゆう事だ? ちゃんと説明してくれ。何を聞いても、俺は驚かないから」
(はい…。ごめんなさい…)
玄関を出た聖は一息ついた。
「謝る事なんて何もないだろう? むしろ、謝るのは俺の方だ。…勝手に思い込んでしまって、一方的にお前に酷いことばかりしてしまった…。お前が入院中に、父さんから離婚しろと言われて、目が覚めたんだ。…ごめん…」
(いいえ…私、ずっと貴方が父と母を殺したと思い込んでいました。だから…)
「知っているよ。全部、お兄さんから聞いているから」
(え? 兄に? )
「会いに行ったんだ、お兄さんに。柚香の事、傷つけて来た事を謝りたくてね。…初めは、警戒してたけど話してくれたよ。全てをね」
黙ったまま柚香は何も答えなかった。
「今日は、何もなかったよ」
(え? )
「お兄さんが手を打ってくれて、金田理子が母さんを殺した事を自白したんだ。彼女は俺を狙っていたけど、本当の目的は父さんの事だったようだ」
(…お父さんの事? )
「世間で言うファザコンって奴かな? 金田理子は、年上の父親のような男にしか興味がなく思い込むと妄想しちゃうらしい。母さんには嫌われていて、よくうちに来ていたんだけど。何だか気持ち悪くて、勝手に家の中に入って来たり寝室に入り込んで来たりがあって「二度と来ないで」って言ったそうだ。それがきっかけで、彼女は母さんを殺してしまったそうだ。母さんを殺しておいて、嬉しそうに歩いて帰ってゆく姿を当時のお手伝いが目撃していた。…警察には、目撃証言がされ。金田理子が班員だと確定して逮捕されたが。まだ12歳未満の子供だから、罪にはならなかったようだ。でも、大人になってからも金田理子は年上の男を狙い思い通りにならなくなると殺害している事実が判明している。ここ数年は、父親と恋人のような関係だそうだ」
(…そんな事が…)
「お兄さんが全部、終わらせてくれたから。もう、何も心配しなくていいよ」