結婚は復讐の為だった…いつのまにか? …
「ああ、あの時の方ですね? 思い出しました。抱いている赤ちゃんは、あの時の赤ちゃんですか? 」
「はい。元気な男の子が生まれて、病院に運ばれてからは色々バタバタしていてどなただったのか探していたのです」
女性は柚香を見た。
「あれ? 奥さまですか? 」
「は、はい。妻の柚香です」
女性は柚香の顔をじっと見た。
「あ! 奥様、この前病院でお会いしましたよね? この子の3か月検診に行ったとき、産婦人科でお会いしましたよね? とっても綺麗な方だったので覚えていました」
柚香はちょっと言いずらそうな顔をして頷いた。
「やっぱりそうだったのですね。なんだかお二人を見ていると、とっても羨ましいです。イケメンの旦那様に、綺麗な奥様だなんて。生まれてくる赤ちゃんも、きっと可愛い赤ちゃんですね」
聖はちょっと戸惑った目をして柚香と女性を見ていた。
「奥様の出産の前に、私の出産に立ち会ってくれた旦那様ですから。何も心配ないと思いますよ。今が大切な時期ですから、無理なさらないで下さいね」
「おーい! どうかしたのか? 」
女性の傍に旦那さんらしき男性が駆け寄ってきた。
若い女性に対して、男性は30代後半に差し掛かるような落ち着いた紳士だった。
「貴方、この方ね。私の出産に立ち会ってくれて、助けてくれた人なの」
「え? 貴方が…。妻がお世話になってしまって、申し訳ございませんでした。ちょうどあの時は、私が出張から帰ってきた時で駅で待ち合わせをしていたのですが。電車が遅れていまして、貴方に助けて頂いてとても感謝しておりました」
「い、いえ。そんな大げさなものではありません」
「私、こうゆう者です」
名刺を取り出して聖に渡してきた紳士。
名刺には医療関係の企業で社長をしていることが肩書に書かれていた。
「大手の医療企業の社長様なのですね」
聖も名刺を取り出して紳士に渡した。
「ああ、あの宗田ホールディングの副社長様でしたか。これは、とても良いご縁ですね。いずれ、お仕事の事でお伺いしたいと思っていました。このような形ではございますが、ご挨拶できてよかったです」
「こちらこそ」
「奥様も素敵な方ですね。どうぞ、お幸せに」
「ありがとうございます」
紳士と女性は幸せそうな笑みを浮かべながら去って行った。
柚香は複雑そうな顔をして、そのまま歩き出した。
「ちょっと、待って! 」
ギュッと、柚香の手を握って引きとめた聖…。
「…子供、できたのか? 」
「違います…」
「違う? 本当に? 」
「…はい…。そんなわけ、ないじゃないですか…」
「どうして? 俺、本気でお前の事抱いたけど。それでも、ありえないのか? 」
柚香は黙ってしまった…。