結婚は復讐の為だった…いつのまにか? …
 
「港で貴方と会ったとき、なんだか挿花さんに似ているような気がしたのです。優しい目元なんてそっくりで、びっくりしましました。そのせいなのでしょうか、私も何となく仕事上で取引がしたくなりましてね」
「そうでしたか…」
「奥様より、貴方のほうが挿花さんに似ていて。なんだか、貫太郎さんのお子さんのように感じましたよ」
「そ、そうでしたか…」
「ご縁は不思議ですね。きっと、これが運命っていうのでしょうね」

 運命。
 そうなのかもしれない。
 柚香が中絶してまで、俺と離婚したいと言っていると思って、それなら応じるしかないって思っていたが。
 まだ柚香が中絶していないって知らさせるなんて。
 
 聖は複雑な気持ちもあるが、なぜか心の中でほっとしていた。
 
 拓斗と話を終えた聖は柚香に電話をかけた。

 コール音が鳴る中、電話には出てくれないだろうと聖はあきらめかけていた。
 
 すると…。
(…はい…もしもし…)
 少し元気がなさそうな声で柚香が電話にでた。

「柚香。…今日、離婚用紙にサインをするためにお兄さんの事務所へ行くけど。その前に、会ってもらえるか? 」
(いえ…もうお会いすることはできません…)
「どうして? 」
(…このまま会わないほうが、お互いのためですから)
「…でも俺は、ちゃんと柚香の顔を見てサインしたいんだ。…サインして、離婚が成立したら二度と会えないから。柚香の顔をちゃんと見ておきたいから」
(…できません。ごめんなさい…)

 そっと立ち上がった聖は、窓から空を見上げた…。

「俺に会うと、何かまずいことが…あるんじゃないのか? 」
(ありません、そんなこと)
「じゃあ、会ってくれてもいいじゃないか。お兄さんも一緒なら、問題ないだろう? 」
(でも…)

 言葉に詰まったような柚香。
 聖は小さくため息をついた。

「言わないとフェアじゃないから、ちゃんと話すよ。実は今日、如月さんが我が社に来てくれて。正式に取引させてほしいって、言ってきたんだ」
(え? …)
「如月さんって、河野原財閥とは親戚関係だって話していたよ」

 黙ったまま柚香は何も答えなくなった。

「…なんで、嘘つくんだ? 子供、中絶してないだろう? 」
(いいえ…子供は…)
「お前、子供は一人で作ることできないって知っているだろう? 俺の命だって、半分は入っているのに。勝手に中絶なんて、できないだろうが」
(…)

 黙ってしまった柚香…。
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