結婚は復讐の為だった…いつのまにか? …
柚香はバラの花に釣られるように花壇までやってきた。
現在6ヶ月に入った柚香は、お腹も目立ってきた。
性別はハッキリしないようだが、双子なのは間違いないようだ。
柚香が花壇へやってくると、聖龍がバラの花の手入れをしていた。
「ん? 珍しいね、こんな場所に来るなんて」
笑いかけてくる聖龍に、柚香はちょっと素直になれない表情を向けた。
「柚香。別に、私の事は気にしなくていいから。聖と二人で幸せな家庭を築いてくれたら、それでいいよ」
「え? 」
「私は、柚香が幸せになる姿が見たかっただけだから。その役目ももう終わったし、そろそろ社長も聖に譲って引退しようと思っている。引退したら、この家からは出てゆくつもりだから安心していいよ」
出ていくの?
柚香は何も言わずに聖龍を見た…。
「この家には悲しい思いでしかないからね。このままいても…」
「辛い思い出だけ残して、自分がいなくなればそれで終わるの? 」
「え? 」
怒った目をしている柚香に、聖龍は驚いた。
「どうして? …どうして、これから楽しい思い出を作ろうとは思わないの? 」
怒った目をしている柚香の目が潤んできて…。
「これから…この子たちが生まれてくるこの家が…楽しくないって、そう思っているの? 」
「いや…そうは思わないけど…」
「やっと一緒に暮らせるようになったんじゃないの? 私と…」
すっと柚香の頬に涙が伝った…。
「…アメリカにいたとき、香さんから話を聞いていたの。…なんだか、本当のお父さんの話を聞かされているような気持で不思議だった。…香さんがよく私に言っていたの。…他人なのに、貴女を見ているとお父さんに思えてすごく親近感を感じるって…」
「香がそんなことを…」
「初めて会ったとき、とても懐かしくて…。ずっと、悲しみを一人で抱えてきた人だって思ったの…。私が、辛い思いをしていることを何も言わなくても気づいてくれて…嬉しかった…」
「…わかるよ。…愛する娘だから…。何も言わなくたって、気持ちが伝わってくるんだ…」
「それじゃあ…出ていかなくてもいいじゃない…」
「いいのか? 私がいても」
「どうして? 一緒にいたくないの? 」
「いや…一緒にいたいよ。…でも、私がいると邪魔をしているような気がして」
「…お母さんの事、もっと教えてほしい…」
聖龍はぐっと胸に込みあがるものを感じた。
「柚香…」
ギュッと柚香を抱きしめた聖龍…。
「…おかえり…。よかった、柚香が戻ってきてくれて…」