結婚は復讐の為だった…いつのまにか? …

(柚香ちゃんいらっしゃい、ゆっくりして行ってね。今日は、主人も外出してて聖も練習でいなくて。寂しい思いをしていたの)
 笑顔で出迎えてくれた愛香里。
 当時、まだ小学生だった柚香は、愛香里の笑顔を見ていると、とても癒されるのを感じていた。
 
 柚香の母親は病弱な体質でよく寝込んでいて、柚香は学校が休みの日は一人で過ごす事が多かった。
 ある日、一人で遊んでいた柚香を見かけた愛香里が声をかけてきて公園で一緒に遊んだことがあり、それがきっかけで仲良くなり、愛香里が一人で休みの日に家にいる時に柚香を呼んで話し相手になってもらっていたのだ。
 その為、聖とは顔を合わせる事はなく、時々、聖龍とは会う事があったが殆ど会話を交わす事はなかった。
 
 親子ではないが、愛香里は何故か柚香の事が気に入っていた。
 聖の妹の香がアメリカに行ってしまい、女の子が家にいない事もあったのかもしれない。

 あの事件の日。
 雨の降る中、聖は体育館で練習をする事になりいつものように出かけてしまい、聖龍も取引先との約束で出かけていた時だった。

 トイレに行った柚香は広い屋敷の中で、迷子になり戻ってくるのが遅くなり、急ぎ足で戻って来たが…。

(おばちゃん遅くなってごめんね、広くて迷子になっちゃった)

 戻って来た柚香は血まみれになっている愛香里を見て、茫然と佇んでいた。
 そこへ迎えに来た晃彦(あきひこ)がやって来て、状況を把握した晃彦は現場を柚香に見せてはいけないと思い、足早に柚香を抱きあげて去って行ったのだ。

 
 そう…。
 柚香は殺していない。
 戻って来た時には愛香里は既に殺されていたのだ。


 思い出すだけでも、柚香は身震いがする…。
 そしていつも、自分を責めてしまう。

 もっと早く戻って来ていたら、あんなことにはならなかったのに…。
 私が戻るのが遅かったから…私のせいだ…。
 そう思って、ずっと自分を責めているのだ。

(柚香ちゃん。…もしかして、柚香ちゃんは本当の犯人を、知っているんじゃないのかい? )
「い、いいえ! 知りません」
 
 小さめの声で喋っていた柚香の声が、少しだけ大きくなったのを聞くと、聖龍はやはり何か知っていると悟った。
(…今はまだ聞かないよ。…でも、もう自分の事を痛めつける事はやめて欲しい。愛香里が殺されたのは、柚香ちゃんのせいじゃないから)

 聖龍はずっとそう言ってくれている。
 でも聖はきっと…私が殺したって思い込んでいるに違いない。
 この結婚だって…。

(とにかく、近いうちに帰国するから。もう無理はしないでね)
「…はい…」


 電話を切った柚香は、家の掃除を始めた。

 掃除をしながら柚香は咳き込んでいた。
 少し顔色も悪いようだ。
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