浮気ダメゼッタイ!悪役令嬢ですが一途な愛を求めます!

「この度は兄が申し訳ないことをしました」
「頭をお上げください!」

 先日の国王夫妻に続き、第二王子にも頭を下げられ、セリーヌは慌てた。動揺していたことも重なって、つい本音を漏らしてしまう。

「テオドール殿下のせいではありません! わたくしにも至らないところがあったのだと思います。……ですから……、この度のテオドール殿下との縁談には、……驚きました」

 セリーヌの言葉に、テオドールは苦笑しながら答える。

「すみません。王家の都合で振り回してしまい、本当に申し訳なく思います」
「テオドール殿下は……わたくしで、よいのですか?」
「もちろんです。貴女ほど素晴らしい女性を私は知りません」

 即答だった。
 あまりに早い回答で、セリーヌは返す言葉がない。そこまでを微笑ましく観察していた王妃が、「ではあとはお二人で」と言い残し、侍女たちを連れて出て行ってしまった。婚約をまだ正式に結んだわけでもないのに、寝室に二人きりにされてしまい、セリーヌはドギマギしてしまう。

 チラリとテオドールを見ると、じっとセリーヌを見ていたのか、目が合ってにっこりと微笑んだ。明らかに病弱だと分かる顔色だが、その造形はとても美しく、微笑まれただけでセリーヌの胸は高鳴った。

 どうやらテオドールは、アベルと違ってセリーヌに関心はあるようだ。

 しかし、前世のことを思い出した今、セリーヌは譲れないものがある。今日ここへきた理由の一つは、テオドールにそのことを懇願してみるつもりだったからだ。セリーヌは思い切って話し始めた。
 
「恐れながら……殿下、婚約を結ぶにあたり、一つだけ、お願いをしたいのです」
「ええ、もちろん。セリーヌ嬢には王家がご迷惑をおかけしています。これからの貴女の人生を頂戴するのですから、私に出来ることは何でもおっしゃってください」

 内容をまだ言っていないのに、えらく簡単に「願いごとを叶える」と即決するテオドール。セリーヌは驚きつつも、その願いを口にした。

「殿下の妃は……、わたくしだけに、していただけますか……?」

 ドレスの裾をグッと握り、目を瞑って願いを言い切った。前世の浮気を思い出した今、アベルの浮気はとても許せない。
 その上、テオドールにまで浮気をされるのは、耐えられないと考えたのだ。

 テオドールはどう思っただろうか。
 アベルの愚行を許せぬ心の狭い令嬢だと呆れただろうか。
 病弱な彼の子孫を残すため、多くの妃を娶るべきだと考えるのだろうか。

 もしそうならば、この縁談からは逃げなければならない。

 俯いたまま答えを待っているが、一向に反応がなく、そっとテオドールを見た。
 そこには顔を真っ赤にして、口元を手で覆い、まるで照れているような様子のテオドールがいた。

(え、何ですの? その反応?)
< 13 / 29 >

この作品をシェア

pagetop