浮気ダメゼッタイ!悪役令嬢ですが一途な愛を求めます!
「きゃあ!」
「姉上!」

 馬車が大きく揺れる。フィルが剣を握り、「姉上はここで伏せておけ!」と飛び出していった。

「フィル!」

 馬車の周りで何かが起こっている。フィルが同行する時点で護衛騎士を数人連れてきていたので、彼らが戦ってくれているようだ。もし、誰にも気づかれず出発していたら──。
 恐怖で身体が震え始めた。

「セリーヌ嬢はあの中だ!」

(今、私の名を……?)

 何故自分を狙っているのか、セリーヌは見当もつかない。
 突然の自分の危機に、身体がガクガクと大きく震えている。前世も今もこんな危機は今までになかった。フィルは大丈夫だろうか。自分のせいで何かあったら。

(怖い!)

 その時、馬車の扉が開いた。セリーヌは思わず頭を抱えて身を縮めた。恐怖で悲鳴も上げられない。

「セリーヌ!!」
「!」

 その声にハッと顔を上げる。すると、そこにいたのは、会いたくてたまらなかったテオドールだった。必死の形相で、セリーヌを確認すると馬車に乗り込んできた。外はまだ騒がしいが、テオドールの顔を見てセリーヌは思わず彼に飛びついた。

「テオ様ッ!!」

 セリーヌの瞳から大粒の涙が溢れた。テオドールは力いっぱい抱きしめる。彼女をかき抱く腕は力強く、その強さにセリーヌは心から安堵した。セリーヌもテオドールの身体にぎゅうぎゅうと抱きついて泣いた。

「怪我はありませんか!? 痛いところは?」
「何もっ……何もありませんわ! ……テオさまっ! テオっ!」
「セリーヌ」

 テオドールに縋り付くセリーヌに、テオドールが優しくキスをした。

「遅くなってすみません。もう、大丈夫です」

 その微笑みに緊張が溶けたセリーヌは、そのまま気を失った。

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