浮気ダメゼッタイ!悪役令嬢ですが一途な愛を求めます!
2 断罪される悪役令嬢なので
 浮気、ダメ、ゼッタイ!
 
 それは、前世を思い出したセリーヌが、まず第一に考えたことだ。


 セリーヌはその日、いつも通り王宮での妃教育と公務を終え、馬車で帰宅していた。
 連日厳しいレッスンを受け、アカデミーの課題もこなし、簡単な公務も任せられている彼女は、かなり多忙だ。その為、馬車での移動時間は彼女のわずかな休息時間だった。とはいえ、眠るわけにはいかないので、目を閉じて瞑想しながら休息を取る。
 
 この日も目を瞑り、余計なことを考えないように意識しながら馬車の揺れを感じていた。

 『余計なこと』というのは、最近現れた男爵令嬢のことである。ピンク色の髪をした不思議な令嬢で、セリーヌの婚約者であるロアンデル王国第一王子のアベル殿下と、かなり親しい様子なのだ。

 そして煩わしいことに、それを親切な生徒達がセリーヌに逐一報告してくる。
 ランチを共にしていたとか、王族の個室に招かれてお茶をしたらしいとか、何か贈り物を賜ったようで自慢しているだとか、セリーヌからすればどうでもいい情報が、どんどん耳に入ってくるのだ。

 アベルのことは、婚約者ではあるものの、特別な感情は抱いていない。言うなれば運命共同体のような存在だ。正直、彼と体を繋げて子を成すだなんて想像もつかないので、将来側妃を迎えてもらうのは一向に構わない。
 だが、アカデミーで堂々とイチャつくのは、品がないし外聞も悪いのでやめてもらいたい。

 何度か直接アベルに懇願したが、セリーヌの嫉妬だと勘違いされ、適当にあしらわれている。面倒くさい。

(はぁ……疲れましたわ)

 本来第一王子であるアベルがするべき公務も、現在セリーヌが担っている。アベルがいつまでも立太子されないのは、こうした素行の悪さが目立つからだった。

 セリーヌとしては、彼が国王になろうがなるまいがどちらでも構わない。彼の妃として、この国のために出来ることを公平に行うだけだ。
 それでも、アベルと結婚しなければならない未来は憂鬱だった。アベルの仕事は全て押し付けられ、愛などない結婚生活になるのは間違いない。

「はぁ……」

 今日もセリーヌは、ため息をつく。その数は、この人生で数えきれないほどだ。

(この間読んだ恋愛小説によれば、婚約者が別の令嬢に夢中になることを、『浮気』というのだったかしらね……)

ズキン

 自分の婚約者が『浮気』をしているのだと自覚した途端、頭痛が始まった。連日の多忙を極める生活についに限界が来たのかもしれない。ズキズキとする痛みに耐えながら、セリーヌは目を瞑って馬車が止まるのを待った。
< 3 / 29 >

この作品をシェア

pagetop