魔法少年と王子様♀︎

プロローグ

「あやちゃんねー魔法少女になるのー!ここでこうして、こうでね、かわいくてかっこいんだよ!」
「へぇ、そうなんだ!あやちゃんならきっとなれるよ、がんばって!」

お迎え待ちの幼稚園の隅、遊具のそばでくるりと周り、おもちゃの杖を掲げる幼女の遊びに付き合い、真摯に深く頷く青年がいた。青年──神風(かふう)藍人(あいり)の言葉に満足したのか、幼女はご機嫌に藍人の手を引っ張り他の遊具へと誘導する。それに終始ニコニコで付き合い、見守る彼をまた、少し離れたところで見ていた男がいた。

「…藍人。お前何してんの」
「あ、鈴執(りんと)夢威(ゆい)ちゃん達のお迎え?お疲れ様〜!」

鈴執と呼ばれた青年は、少し長い横髪をクルクルと指で弄りながら藍人に近づいた。その両隣には先ほどの幼女と同じ年頃の子供が二人、鈴執の手をしっかりと握っていた。

「両手に花だね、鈴執」
「そう捉えるのはお前だけだろ」

鈴執は藍人の中学時代からの友人で、高校三年になった今でも「鈴執がいる場所に藍人がいる」というのが学年…いや、全校での共通認識となっていた。藍人は風紀委員という訳で毎日校門に立っていることから、全校生徒の顔見知りであるし、鈴執は文武両道で、数多くの表彰を受けている。良くも悪くも目立つ二人を知らないものは居ないといっても過言ではない。ここだけの話、密かにファンクラブすらできているのだ。

「で、お前何してんの?ここ幼稚園だけど」
「ん?やだなぁ鈴執。ここに来る理由なんて一つしかないでしょ?」

笑顔で振り向いた藍人の眼は、何か任務を遂行する仕事人のような緊張感があり、こちらに何かを訴えてくるようだった。普段とは違う親友の姿に鈴執はごくりと唾を飲み込み、ゆっくりと紡がれる言葉を待った。背景と化した太陽の光を浴び、影になって強者感が増した藍人がさも当然のごとく言い放った。

「ロリショタに、癒されに来た」
「あ、もしもし警察ですか?」
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