となりの席の読めない羽生くん
「今日の態度なんなの?」

「何って…」
「食事くらい、どっちが決めてもいいよね?」
(…だったら私が決めてもいいはずじゃん…)
そう思ったが、葉月は黙っていた。

「いつも葉月が行きたいギャラリーとか美術館とか行ってあげてるよね?」
「………」
「そのメガネもさ、俺がメガネ嫌いだって知ってるよね?」

「でも、メガネがあったほうが動きやすいよ…」

「あのさぁ…葉月は俺の彼女なんだから…」
翔馬は葉月が反論したことに呆れたように言った。

「…かけたい時にメガネかけたいし、バイトだって好きな時間にしたいよ」

「は?」

「旅行だって…私は伊豆に行きたいし、箱根に行くなら美術館に行きたい」

「葉月はまだ高校生なんだから、俺の言うこと聞いてたほうが—」

「私は翔馬くんの人形じゃないもん!納得できないことは聞きたくない!」

———パンッ
———ッカシャン…

翔馬が葉月の左頬を叩くと、メガネが地面に落ちた。
「………え…」
葉月は一瞬、状況が飲み込めなかった。
「あのさぁっ、まだガキなんだから—」
翔馬は謝るわけでもなく、まだ高圧的な言葉を投げようとしていた。葉月は信じられない気持ちで左頬をおさえながら地面を見ていた。

「痴話喧嘩なら、他所(よそ)でやってくれませんか?店内まで聞こえそうなんですけど。」

誰かの声がした。
どうやら飲食店の脇の路地だったらしく、裏口から出てきた店員のようだ。

「とりあえず、もうやめといた方がいいんじゃないですか?」
「なんだよお前、関係ないだろ。」
「あんたさぁ…今この子のこと叩いた?メガネ吹っ飛んでるけど。警察行って俺が証言してもいいんだけど?」
店員に言われると、翔馬は舌打ちをして路地から出て行った。

葉月は俯いたままホッとした。

「あれが、歳上で落ち着いてて優しい彼氏?」

(…え!?)
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