彼女の夫 【番外編】あり
フォローしたブライアンの患者さんは日系企業のエグゼクティブで、容体が落ち着いたら日本に帰国するのだという。

「ドクター早坂、もし可能なら日本まで付き添ってもらえないだろうか。機内で急変したらと思うと、不安が消えないんだ。もちろん、エアチケット代やホテル代はこちらで負担する。
プロフェッサーには許可をもらったんだが、最終的にはドクター早坂の判断に任せると言われていてね」

「アオイ、僕からも頼みたい。僕が行ければいいんだけど、残念ながら僕は日本も日本語も分からない。行っても、あまり役に立たないだろうし」

「・・分かりました。ご一緒しますよ」

「良かった。秘書にドクター早坂の分を手配させるよ。無理を聞いてくれてありがとう」

患者さんのご自宅は東京都内だと聞いたから、行き先は羽田空港だろう。

だとしたら・・。

あのビルに出向いたら、彼を見かけることができるだろうか。
離れたところから、ひと目見るくらいなら許されるだろうか。

「アオイ? どうしたの、ぼんやりして」

「ううん、何でもないわ。ところで、退院の予定は?」

「週明けかな。だから、出発は来週後半になるだろうね。アオイ、不在中は僕がアオイの患者さんを診るから安心して行ってきて」

来週後半・・か。
金曜の夜に羽田到着で、日曜に出発だとするとオフィスの彼には会えない。

でも、平日だからといって彼が必ずオフィスにいるとも限らない。
結局のところ、先のことは神のみぞ知る・・なのだ。

私は病棟に戻り、来週後半から翌週の予定をチェックして申し送り事項を整理した。


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