彼女の夫 【番外編】あり
「社長・・。いま早坂先生のこと、考えてますよね・・」

「ん? さぁな」

「ずっと近くに置いていただいているので、分かるんですよ。普段の表情とは全く違いますし・・。一緒にいられないのは、何かオトナの事情があったってことですよね」

「・・知りたいか?」

そう問いかけた俺に、高澤は苦笑して首を横に振った。
俺自身は話してもいいと思ったものの、高澤は元々プライベートに踏み込んでくるタイプではない。

「高澤は、大切にしている女性いないのか?」

「今は・・。社長のお世話でそんな余裕無いですしね」

「ハハ、悪かったな。手のかかる社長で」

「・・そろそろ戻りましょう。来客の予定もありますから」

高澤に促され、車に戻る。
乗り込む前にもう一度後ろを振り返ったけれど、想う女性の姿は無かった。


「ところで、社長は明日の夜どうされます? 会長ご夫妻と専務ご夫妻が、同時間帯に海外からお戻りですよね」

オフィスに戻る車内で、高澤がバックミラー越しに話しかけてくる。

「そうなんだよな。なんか俺だけそこに居ないのも微妙な気がするし、出迎えに行くか・・。土曜だし、高澤は来なくていいぞ」

「はい。じゃあお言葉に甘えて、そうさせていただきます」

「どっちも羽田に21時くらいか。国際線だから到着してもすぐには出てこないし、21時より少し前に着けばいいだろうな・・」

スマートフォンで到着便の時刻を確認した後、窓の外に視線を向けて、咲き始めた桜並木の景色をぼんやりと眺めた。


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