彼女の夫 【番外編】あり
役員以上しか使えないホットラインで、発信元は専務である弟の直生(なお)だ。
リビングに移動し、スマートフォンの受信ボタンをタップした。

「直生、何があった?」

『ロンドンで玉突き事故があって、うちの社員が何人か巻き込まれた。病院とのやり取りや業務状況も心配だから、今夜未明のロンドン行きで現地を見てこようかと。兄貴、行ってもいいか?』

「ああ、もちろんだ。状況によっては俺も行くから、報告は詳細に頼む。役員たちには月曜の朝イチで集まってもらうよう手配する」

『分かった。じゃあ、急いで準備して行ってくる』

電話を切り、すぐに会長である親父に電話する。
リビングの入り口で、心配そうにこちらを見ている彼女が視界に入ったものの、ひとまず親父への報告を優先した。

『休みの日にどうした、何かあったのか?』

「ロンドンで事故があって、社員が数名現地の病院に搬送されたようです。直生が未明の直行便で現地に飛び、状況を報告してくれると」

『そうか、分かった。現地社員と家族のフォロー、頼むぞ』

「はい。河本に指示して、すぐに対応させます」


ふーっ。
深く息を吐きながら、俺はリビングのソファに腰掛けた。

河本にも、すぐに指示を出さないと・・。

「玲生さん」

すぐ後ろから彼女の声がして、俺は目を閉じた。
もう、バレただろうな・・と。


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