彼女の夫 【番外編】あり
「蒼さん・・ごめん」

それ以外、言い訳も浮かばなかった。

「あ、ううん。私・・帰ったほうがいい?」

「いや、そんなことないんだけど・・。でも今みたいなやり取りが、この先何回かあるから興ざめだろうし、しばらくは・・さっきみたいな雰囲気にならないと思うから」

そういう立場なのだ。

会社に何かあれば、当事者だけじゃなく多くの社員が巻き込まれ、取引先にも影響する。
それを彼女が理解するべきだとは考えていないし、押し付けるつもりもない。

「玲生さん・・私に、何か手伝えることある?」

「えっ」

「深刻な話が続くなら、外に出ないほうがいいわよね。だけどお昼ご飯もまだだし、何かお腹に入れないと・・。冷蔵庫、見てもいい?」

そう言いながら彼女は冷蔵庫の中身を確認し、メモを取っている。

俺はその後ろ姿を不思議な感覚で見ていたものの、気持ちを切り替えて河本に連絡し、いくつか指示を出した。


「玲生さん、コーヒーどうぞ」

「あ・・うん、ありがとう」

「冷蔵庫とパントリーを見たら、パスタならすぐできそうだった。それでいい?」

「もちろん。でも・・どうして・・」

ん?と小首を傾げながら、彼女はお湯を沸かし始めた。

どうして、何も聞かないんだ?
雰囲気を壊した上に、彼女より会社を優先したのに・・。

「玲生さんにパスタを出したら、買い物に行ってきます。ロンドンとのやり取りなら時差もあるし、睡眠と食事を上手く取らないと」


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