彼女の夫 【番外編】あり
どうぞ、とパスタの皿を差し出した彼女の手をつかんだ。

「どうして? 俺、蒼さんをベッドに置き去りにして会社を優先したんだ。それなのに・・」


「そんなの・・・・。経営者なら当然、でしょ?」


えっ。
経営者なら当然・・て。

まさか、知ってたのか?

「蒼さん・・・・俺が社長だって、いつから知ってた?」

「・・初診の後、河本さんにお電話いただいたの。『社長の火傷の具合はどうでしょうか』って。だから、最初から・・かな」

つかんだ手から、俺の手が滑り落ちる。
完全に気が抜けた。

「知ってたからこそ・・。
玲生さんが『会いたい』ってクリニックに来た時は、本当に戸惑った。私も、素敵な人だなとは考えていたけど、まさか玲生さんが私を・・なんて、考えてなかったから。
だけど、その後ずっと玲生さんが忘れられなくて、忘れるどころか存在が大きくなってどうしようもなくて、あの日、玲生さんに会いに行ったの」

「・・・・」

「きゃっ!」

彼女の手首をつかんでソファに引き寄せると、彼女はバランスを崩して倒れ込んだ。

俺は、覆い被さるようにして彼女の顔を見下ろす。
見上げる彼女の瞳は、ゆらゆらと揺れていた。


「好きだ」

「え・・」

「そんな告白されて、俺だって黙ってられるはずないだろう?」

「・・甘い雰囲気には、しばらくならないんじゃ・・・・。ん・・っ」

彼女の唇を味わっていると、俺の胸を両手で押してガバッと上半身を起こした彼女が『早くパスタ食べてください!』と頬を赤くして怒っている。

嬉しくて・・ほんの少しだけ涙が出た。


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