彼女の夫 【番外編】あり
ロンドンに飛んだ弟からの連絡を待って、俺は両親の待つ実家に向かった。

弟によると、巻き込まれた現地社員に重傷者はおらず、いずれも短期間の入院か通院で回復する見込みとのことだった。

業務についても、弟が同行させたメンバーによって充分カバーできるとのことで、親父も安心したようだ。

「良かったな、社長」

「はい。それにしても、さすが直生。ほんの少しの情報しかなかったのに、動きも早いし人選が的確だった。
家族のフォローは、河本が人事部と協力して進めてくれてるから、そちらも問題ありません」

「そうか、分かった。引き続きよろしく頼むよ。・・そうだ、美味そうな肉をもらったから、晩メシ食っていけ。美沙(みさ)、玲生の分も用意してくれるか?」

「いや、彼女を待たせてるから帰るよ」

何の気なしに口にした言葉に、両親は揃って固まった。
顔を見合わせ、信じられないといった表情を浮かべている。

「じゃあ」

「おっ、おい待て玲生。いま・・『彼女を待たせてる』と言ったか?」

「・・言ったけど」

「今度、俺と美沙にも紹介してくれ」

親父のセリフと、こくこくと頷く母親の顔を見て、俺は苦笑いした。
もしかしたら、ふたりは俺が一生結婚しないとでも思ったんだろうか。

「考えておくよ。まだ付き合い始めたばかりだから」

いろいろ聞きたくて仕方ないといった両親の好奇な視線を振り切り、俺はマンションに戻った。


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