彼女の夫 【番外編】あり
その、直後。
ぎゅううっ。

「くっ、くるし・・あお・・いっ」

「今日の『ずっと』は、朝までね」

「蒼・・」

「玲生さん、何したい?」

ふっ、と腕の力が緩んだ隙に立ち上がり、不意打ちのような軽いキスをする。
見上げた彼女の目には、うっすらと涙の跡があった。

「どうした・・」

目元を指でなぞると、彼女が手を重ねてきた。

「ずっと一緒にいたいのは、私も同じ・・。でも、言ったらいけないって思ってた・・」

ほろりと涙が溢れる。

「やだ・・ごめんなさい」

彼女は後ろを向いた。

今度は、俺がその肩を抱き締める。
覆うように、後ろから包んだ。

「蒼」

「玲生さんが・・好き・・」


苦しそうに言う彼女に、似た者同士だなと思った。
相手が負うものを常に考えながらの恋愛は、切なさより苦しさが上回る。

俺はともかく、どうしたら彼女の苦しさを減らすことができるだろうか。

いや、そうじゃないな。
似た者同士なら、俺だけがその苦しさを引き受けようとしてもダメなんだ・・。

「蒼、『玲生』って呼んでみて」

「え?」

「いいから、呼んでみて」

「・・玲生」

どう、感じただろうか。
少なくとも俺は、『蒼』と呼ぶことで愛しさがグッと増したように感じた。

これまでも、その時付き合っていた女性に『玲生』と呼ばれたことはあるし、その女性の名前を呼んだこともあった。

でもいま思えば、ただそう呼び合っていただけで愛情がこもっていたわけではなかった気がする。

「蒼」

もう一度気持ちをこめて名前を呼び、彼女にキスした。


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