彼女の夫 【番外編】あり
ロンドンの件も落ち着いた頃、珍しく終業後に来客があると高澤に言われた。

「誰だ? こんな時間に」

「先日取材のあった出版社の方です。出来立てを持って来られるとか。この近くで別件があるので、もし時間が取れれば寄りたいとのことでしたよ」

「そうか」

「あ、いらっしゃったようです。隣の会議室に入っていただきますね」

高澤は出迎えのため、エントランスに向かった。

こないだの編集者・・。
『色気』と『余裕』のある男だったか。

俺はジャケットに袖を通しながら、会議室に向かった。


「服部社長、遅い時間に申し訳ありません。仕上がりがとても良かったもので、直接お届けしたくなって」

「坂本さん、わざわざすみません。ありがとうございます」

「いえ、すぐ近くに用があったものですから、ぜひにと。この付箋のページです」

雑誌を受け取りつつ、編集者を観察するように見ていた。
確かに、艶っぽさのある男だ。

取材の時はそれなりの緊張感があったから気づかなかったけれど、対峙するだけで、その雰囲気に引き込まれてしまうような独特の空気感がある。

「どうですか? この写真なんて、うちの女性社員が絶賛してましたよ。スマートさが滲み出てると」

そう言われて苦笑いすると、編集者からそれまでの穏やかな営業スマイルがスッと消えた。

「あなたの地位なら、手に入らないものなんて無いでしょう。・・蒼から、手を引いてもらえませんか?」


え・・?



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