彼女の夫 【番外編】あり
「あの・・それは、どういう・・」

「言葉の通りです。蒼から手を引いてください」


編集者は、彼女を『蒼』と呼んだ。
どうしてだ・・?

「あなたは・・。坂本さんは、彼女の──」

「夫です」


え?


「僕は、蒼の夫です」


繰り返し言った。


「え・・?」


そう呟くのがやっとだった。


「最近妻の様子がおかしかったのは、あなたがいたからだ。・・・・忠告は、しましたよ。それじゃ失礼します、服部社長」


そう言って、編集者は会議室を出て行く。


ガタン。
思わずよろけて、テーブルに寄り掛かった。


「いまの・・何だ・・? 夫?」


そんな・・。
嘘だろ・・。


「ハハッ・・」


そのまま会議室の椅子に座り込んだ。

夫って・・。


「マジか・・」


確かめなかった俺がバカだったのか?
目元を手で覆って、天井を見上げた。


ガチャッ。
会議室のドアが開いて、河本が入ってくる。

「社長、申し訳ありません。この後なんですが・・、ええっ?」

俺の様子を見て驚いたんだろう。

「河本さん、すみません。俺としたことが・・」

「えっ? いったい、何があったんですか?」

俺は目元から手を離し、力無く微笑んだ。

「彼女に夫が・・・・。不倫・・・・だったんです。
もし・・このことで、メディアから問い合わせが来るようなことがあったら、私が対応するので教えてもらえますか・・。あ、そうだ、今日はひとりで帰ります・・」

なんとかそれだけ伝えて、俺は椅子から立ち上がり会議室を後にした。


< 42 / 109 >

この作品をシェア

pagetop