彼女の夫 【番外編】あり
「それで? 何があったんだよ」

2杯目をグラスに注ぎながら、弟が俺に言った。

「直生、俺に付き合っている女性がいたのは知ってるか?」

「ああ、親父から聞いた。嬉しそうに電話してきたよ」

それを聞いて、思わずため息が出る。
両親には、何と言えばいいのだろうか。

「それで?」

俺はまず、彼女が隣のビルでクリニックを開業している医師であること、俺を社長だと知った上で付き合っていたことを伝えた。

弟は相づちを打つわけでもなく、ソファに横並びに座ったまま静かに聞いている。

そして夕方、その彼女の夫だと名乗る出版社の編集者が尋ねてきたと伝え、少し前にその編集者の取材を受けたとも言った。

「まぁ、説明する分には簡単だけど、内容は衝撃的だろ?」

「・・・・知らなかったのか? 既婚者だって」

「ああ・・知らなかった。確かめもしなかったけど」

「そうか・・」

彼女は結婚指輪をしていなかったし、『坂本』という姓でもなかった。
既婚者か尋ねたところで『違う』と言われれば、おそらく俺は信じただろう。

「バカだよな・・俺。何やってんだろう、ほんと」

「兄貴・・」


自分のことは、正直どうだってよかった。
それよりも自分のしたことで、社会的な影響を及ぼす可能性があることを、何より悔しくて悲しいと思った。

「社長が自分の会社に不利になることするなんて、最悪だよ・・・・」

弟に背中をさすられながら、俺は涙で肩を震わせた。


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