彼女の夫 【番外編】あり
ふと、目が覚めた。
後ろの座席から、少し苦しそうな声が聞こえる。

「・・・・ぅ・・っ・・」

俺はシートのコールボタンを押し、近くまできた乗務員に小さな声で状況を伝えた。

「お気遣いありがとうございます。あとは私たちが対応いたしますので」

その後も、シートに横になったまま様子をうかがっていると、乗客と乗務員、そして医師らしき女性の話し声が途切れ途切れに聞こえる。


「・・を持っていたら・・・・見せてもらえますか? ・・・・じゃあ、これを・・・・。また後で来ますね・・」

「・・・・はい・・少し楽に・・。ありがとう・・ございました」

「・・先生、ご協力感謝いたします。・・・・からも、よろしくと」


足音が遠ざかり、静かになった。
たまたま医師が乗り合わせていたのだろうか。
落ち着いたようで、ひと安心だ。

モニタを見ると、離陸してから5時間ほどたっていたものの、到着まではまだかなり時間があった。

俺はコーヒーをもらい、手元の明かりをつけてスマートフォンを起動する。
着信の通知は無かった。

もしメッセージが届いたら、何と返信すればいいのか。
もし電話が鳴ったら、どう言えばいいのか。

幸か不幸か、あの編集者が尋ねてきた後、彼女からの連絡は一度も無かった。

スマートフォンを操作して承認依頼のメールを処理し、気になったニュースの記事をいくつかチェックして、俺は再び眠りについた。


< 50 / 109 >

この作品をシェア

pagetop