彼女の夫 【番外編】あり
「え・・? どうして・・」


そうつぶやいたのは、彼女・・だった。

蒼・・。


「足・・大丈夫か?」

「あ・・。段差に足を取られて転んでしまって」

「ひとり・・なのか? 医者に行った方が・・いいな」

「あ、うん・・。少し痛みが落ち着いたら・・」


ぎこちない会話が続く。


「そこにクルマあるから医者に連れて行く。ほら、肩につかまれ」

「えっ、でも、あ・・」


彼女を抱き上げて支え、クルマまで歩く。
助手席に乗せてシートベルトをした。

確か海岸沿いにメディカルセンターがあったよな・・。


不思議な感覚だった。
会ってしまえば、こういうものなんだろうか。

見なかったことにもできず、かといって怒りをぶつけるようなこともなく、ただ何とかしてやりたいと思っただけで。


俺の記憶は正しく、5分ほどクルマで走ったところにメディカルセンターがあった。
インフォメーションまで彼女を連れて行き、あとはスタッフに任せる。

ひとりになった俺は、小さなため息をついた。
運命の悪戯は、まだ続いていたのか・・と。

そしてもうひとつ。
この悪戯に身を委ねたら、どういう展開が待っているのだろう・・。

そんなことを思ってしまった。


「玲生さん・・」

処置を終えた彼女が出てきて、遠慮がちに俺を呼んだ。

「どこに泊まってるんだ? そこまで送るよ」

「え・・でも・・」

「『それじゃ』って、置いて帰るような男だと思ってる?」

そう言うと、彼女は苦笑して首を横に振った。


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