彼女の夫 【番外編】あり
ダウンタウンにあるホテルに泊まっていると言うので、そこまでクルマを走らせる。

「玲生さんは、仕事で・・?」

「ああ。ロサンゼルスに支社があって、ここを起点に新しいプロジェクトが始まるんだ」

「そう・・」

仕事は大義名分で、本当は『傷心旅行』だなんて言えるわけがない。
でも、彼女はなぜロサンゼルスにいるのだろう。

「蒼は?」

「私は・・ビルの改装で纏まった休みが取れたから、研修医の頃お世話になった先生に会いに来たの」

「そうか・・」


メディカルセンターからダウンタウンまではクルマで30分ほどで、あと5分もすればホテルに着く。
いくら『運命の悪戯』とはいえ、ここで別れたら、もうこの先会うことなんてないだろう。

どうしても、彼女に伝えなければならないひと言がある。

俺は路肩にクルマを停め、サングラスを外して彼女を見た。
何かを察したのか、彼女もこちらを見ていた。

「蒼・・・・俺が好きになったせいで、蒼を傷つけて・・ごめん」

「玲生さん・・」

「本当に、ごめん。謝って済むことじゃないけど」

頭を下げた俺の肩に、彼女の手が触れた。
少しだけ震えていた。

「私も・・・・ごめんなさい、黙っていて」

顔を上げると、彼女の目は真っ赤だった。
俺は頬に手を伸ばし、指で涙をぬぐう。

「蒼に謝りたかったから、今日会えて良かった。じゃ・・行こうか」

ハンドルに手をかけた俺の腕に、彼女の手が重なった。

「え・・?」

「あの・・もう少しだけ・・・・。助けてもらったお礼に、食事でも・・」


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