彼女の夫 【番外編】あり
第2章
クリニックフロアがリニューアルしても、彼女は帰ってこなかった。
彼女がいたクリニックは、別の男性医師に変わっていた。

結果的に、彼女と俺の関係も特に大ごとにならずに済んだのは幸いだった。
弟と河本が、上手く立ち回ってくれたのだろう。


「あれからもう2年か・・。さすがに吹っ切れた?」

「さぁ・・どうだろうな」

社長室に来ていた弟に尋ねられ、俺は言葉を濁す。

来週、2年ぶりにロサンゼルスに向かう俺に、現地の状況を報告に来てくれたのだ。

「1週間こっち頼むな、専務」

「承知しました。お気をつけて、社長」


俺は相変わらず社長で。
相変わらず・・妻と呼べる人も、恋人と呼べる人もいない。

周りが気を遣って出会いをセッティングしてくれるものの、どうしても結婚する気になれなかった。

まだ吹っ切れていないのか。
それとも、恋愛ごとに興味がなくなってしまったのか。


『35過ぎて独身って、男も女も絶対何か問題あるよね~』

以前カフェで、後ろにいた客が話していた。

確かに俺のような地位にいる男が38にもなってひとりでいたら、よほど理想が高いとか、相当な神経質だとか、もしくは男色・・とか。

「ククッ・・。ま、いずれにしろ問題アリってことだな」

社長室にあるクローゼットのドアを開け、パーティー用のネクタイに変えてジャケットを取り出す。

今夜は出版社のパーティーがある。
・・・・あの編集者も、まだ在籍しているのだろうか。

彼女の夫だという、あの編集者だ。


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