彼女の夫 【番外編】あり
「社長、早坂先生の到着は何時ごろでしたっけ?」

「ん? 羽田に21時過ぎだ」

「そういえば、アレは取りに行かれたんですか?」

「・・これから行くところだが・・・・高澤も行くか?」

日本に帰国してすぐ、エンゲージリングを手配した。

ごくごくシンプルな1カラットのダイヤだが、彼女は医師だし、滅多に出番は無いだろうと思いつつも、気持ちの区切りとして贈りたいと思った。

「私なんか、一生縁のない高級店ですから・・・・社会勉強のために、ぜひ」

「アハハ、行こうか」

今夜、彼女がロサンゼルスから帰国する。
そのまま羽田空港のデッキで、プロポーズする計画を立てていた。

そういった専用のプランもあると聞いたものの、さすがにそれは大げさすぎる気がして、月と星空と滑走路のランプを背景にして彼女に伝えられたらと思っている。

あと少しで彼女に会えるんだ。

そう思うと、ジュエラーのスタッフの説明もほとんど耳に入らず、俺の代わりに高澤が『はい、はい』と頷いていた。


「高澤、到着予定に変更なさそうか?」

「ええと・・・・あれ、30分ほど早まっていますね。ま、早い分には構わないですよね?」

既に空港に向かっていて20時半には着くだろうから、すれ違いになることも無さそうだ。

「ところで、高澤はどこまでついてくるんだ?」

「え? 早坂先生を社長とお迎えして、お宅までお送りしようかと・・」

「いや、いい。羽田まで送ってくれたら、あとは帰っていいぞ」

高澤には、彼女にプロポーズすることを話していない。
いくら秘書でもプロポーズにまで立ち会ってもらう必要はなく、早々にお帰りいただくことにした。


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