彼女の夫 【番外編】あり
「え? え? どうしたの? 玲生さん?」

俺の腕の中で、訳も分からないといった様子で彼女が顔を上げた。

「どうしたもこうしたもない。まったく・・」

「え? 病院から連絡してもらったんだけど・・。あ、でも玲生さんがここにいるっていうことは、ちゃんと連絡がついたからだよね・・。玲生さん、どうしたの?」

「・・・・心配・・したんだよ。いつまで待っても蒼が到着ロビーに現れないし、電話も繋がらないし・・焦った。そんな時に病院から電話がかかってきて・・」

うんうんと頷きながら聞いていた彼女が、そこまで聞いて『あ!』と言った。
そして腕を伸ばし、よしよしと俺の頭を撫でる。


「・・私だと思ったんだね、玲生さん」

「うん・・・・そう」

「そっか。心配かけて、ごめんね。ね?」

「うん・・・・」

すぐに着替えてくるといい、彼女は俺を救急外来手前の椅子に座らせた。
まだ状況がよくつかめていない俺は、ぼんやりと処置室の様子を眺めながら彼女が戻ってくるのを待った。


『医師が、それも内科医が同じ飛行機に乗っていたのは幸運でしたよ。処置が早かった上に救急車にも同乗してきてくれて、すぐに対処できたので重篤な状態にならずに済みましたから。
なかなか名乗り出る医師もいない中、彼女は何度かそういう経験があるそうで・・良かったですね』

『本当にありがとうございました。そのお医者さんは・・』

『あ・・もう帰られましたよ。大切な人を待たせていると仰って』


あー・・、彼女の話をしているんだな。
そうか、そういうことだったのか。

だとすると、もしかして2年前のロサンゼルス行きの機内でも・・。


俺が人生を一緒に歩きたいと願う女性は、とても素敵な人なのだと改めて思った。


< 97 / 109 >

この作品をシェア

pagetop