彼女の夫 【番外編】あり
プロポーズの言葉を口にした俺を、彼女は何も言わずにじっと見ている。

何を・・考えているんだろうか。
まさか、断るための答えを、考えていたりするんだろうか・・。


「何を・・考えてる?」

「うん・・。自信、なくて・・私」

「自信? 何の?」

「いい奥さんに、なれるかな・・って。一度・・失敗してるし」

「いい奥さんには、ならなくていいんだ。俺だって、いい夫になれるかどうかは分からない。
・・そうだな。蒼は、俺とこれからも一緒にいたいと思ってる?」

「うん。それはもちろん」

「それだけで充分だよ」

「・・・・玲生さんが、そう言ってくれるなら」


彼女は、俺の差し出した小箱にそっと手を伸ばす。
承諾してくれたんだな・・と思った。


「着けようか?」

「・・うん」

月明かりを反射したダイヤはキラキラと輝き、ふたりを幸せの光で包む。

「すごく綺麗。これは・・相当高いなぁ」

左手をかざして、彼女は苦笑いする。

「まぁ、値段は気にしないことだ。
でも、良かった・・。断られたらどうしようかと思ったよ。もう新居も用意してあるからさ」

「本当? すごい、こんな短期間に。早く見てみたいな」

「じゃあ、これから一緒に帰らないか? 俺たちの家に」

俺は椅子に置いた彼女のバッグを持ち、もう一方の手で彼女と手を繋ぎ、病院から新居に向かった。


< 99 / 109 >

この作品をシェア

pagetop