悪役令嬢に転生したのですが推しのイケオジ騎士様(モブキャラ)と恋に落ちるルートはどれですか!?
「何でもありません……」

 顔を見られたくなくて、そっぽを向いた。
 すると今度は、ガブリエル王子と目が合ってしまう。

「あー、ブランでしょ! そんな怖い顔だから、女の子も怖がって泣いちゃうんだよ!」

 おどけて言うガブリエル王子のおかげで、幾分気持ちが落ち着いてくる。

「違います、ブランさんは何も悪く……」

 言いかけて、詰まってしまった。
 優しい温もりに、抱きしめられていたから。
 両腕ががっちり、私の背後に回っている。

 レオンだ。

 途端に、胸がキュウっと苦しくなる。
 止まりかけていた涙が、また溢れ出してしまう。

 何で……?

 その涙に戸惑っていると、レオンは私を抱きしめたまま耳元で囁いた。

「エレーナ、苦しいことがあるなら何でも言って。君には、私の婚約者であるというだけで、とても窮屈な思いをさせていると思うんだ」

 気遣いからの言葉だろうが、今の私には『他の者に恋をするな』という言葉に聞こえてしまう。

 ――レオンはこの後、マリーを愛して私を捨てるのに。
 どうして、そんな残酷なことが言えるの?

 唇を噛み締めて、レオンの胸を押し返した。

「ごめんなさい、今は一人にしてください」

 私は緩んだレオンの腕からするりと抜け出すと、そのまま自室に向かって走った。
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