「先生」って呼ばせないで
『うん。また、なんかあったら気軽に話して。電話は出れないと思うけど』


「…それは、担任として言ってる?」


『両方。のんちゃんの気持ちも分かるけど、ごめん。理解してほしい』


そうだよね。


廉くんは、お兄ちゃんの幼なじみでもあるけど、今はもう“担任の先生”。


昔のようにはいかない。


でも、そんななかでも、こうして時間を作ってくれた。


私を励ましてくれた。


「ありがとう、廉くん」


廉くん、大好き。


口が裂けてもそんなことは言えないけど、本気でそう思う。


『別に俺は何もしてないよ。あと俺からも1つだけ。絶対にLINE交換したことは秘密にすること。今日の電話も絶対に誰にも言わないこと。わかった?』


げ、さっそく教師モードだ。


教師モードの廉くんはちょっと怖いんだよぉ…。


「梨沙にだけは言っていい?」


『だめ。俺たちだけの秘密にしといて』


…!!


その言い方、何かズルい。


廉くんと私だけの秘密…。


悪くない。


むしろ、良い。


『わかった?』


「わかった!」


『はい。じゃあもう切るよ』


「え〜」


『え〜じゃない。また月曜な。おやすみ』


っ!!


“おやすみ”


それはやばい。


録音して毎日聞きたい。


低音気味の少し気怠そうな“おやすみ”


なんか、良い!すごく!


「もう一回言って!お願い!」


『…言わない。じゃあな』


「ねぇ廉くんーっ。お願いっ」


『…お前さぁ…、なんでもかんでも自分の要求が通ると思うなよ?』


「ねーえ、お願いっ」


もう二度と聞けないかもしれないんだもん。


もう一回だけ聞きたい。


『はーー。これで最後な。何言おうと切るから。おやすみ』


ブツっ


宣言通り電話は切れたけど、私の脳内には廉くんの“おやすみ”が綺麗に焼き付いている。


幸せだ。


推しから“おやすみ”をいただけるとは!


それも二度も!


「ふふーんっ」


今日は嫌なこともあったけど、終わりよければ全て良し。


最高の一日だ。
< 100 / 129 >

この作品をシェア

pagetop