「先生」って呼ばせないで
「もっと夏音と向き合っていれば、仕事ばっかりになってなければ、あの留守電に気づいていれば。廉はそうやっていくつもの分岐点を振り返っては後悔して、自分を責めて生きてる。きっと今も」


廉くん…。


「…ってのが廉の過去。まぁ2年前のことだから、廉もそろそろ傷が癒えてきた頃かもしれないけど、下手に触れない方がいい話題ではある」


「…お兄ちゃんが前に“廉はやめておいたほうがいい”って言ってたのは、この過去が理由?」


「そう。夏音を忘れようといろんな女性と付き合ってたけど、どの人とも1ヶ月以上保たなかった。兄としては、可愛い妹をそんな男に渡したくないじゃん?」


廉くんにとって夏音さん以上に良い女性はいないんだろうな…。


だから誰と付き合っても上手くいかない。


「…何人くらいと付き合ってたの?」


「そんなに多くはないよ。遊びで付き合ったりもしないし、同時に複数人と付き合うとかも絶対しない人だから」


濁すってことは、1人2人ではないんだろうな。


4、5人かそれ以上か。


「俺としては早く立ち直ってほしいけど、廉は自分のせいで自殺したと思ってるからなー…。そう簡単には傷は癒えないか」


「…後悔してもしきれないよね」


もっと連絡を返していたら今でも生きていたかもしれないとか、電話に気づいていたらとか、考えだしたらキリがない。


そんなツライことを廉くんはずっと考えてきたんだ。


「教えてくれてありがとう」


明日謝ろう。
 

“フラれちゃったんだー?”


最悪なことを言ってしまった。


しかも、あんな軽いトーンで…。


廉くんの心に土足で上がり込んで踏み荒らしてしまったんだ。
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