「先生」って呼ばせないで
「当時は本当に心に余裕がなくて、自分のことしか考えらんなくて。最低だよな。本当に」


「そんなこと―」


「結局、遠回りして時間かけて帰ったんだけど、ずっとイライライライラしてた。人身事故を起こした奴に。まさかそれが夏音だったなんて知りもせず」


部室棟の壁にもたれ、遠くを見て話す。


その顔は濡れていた。


「次の日の朝、夏音の父親からの電話で夏音の自殺を知った。前の日の人身事故が夏音だったことも。それから夏音からの最後の留守電も聞いた。絶望した。自分の醜さと愚かさと、夏音を救えたかもしれないのに救えなかった無能さに。自分はなんて醜い人間なんだろう、自分のことしか考えてない愚かな人間なんだろうって」


「……」


「こんな話されても困るよな。ごめん。ただ、のんちゃんには知っててもらいたくて」


そして、ふぅっと大きく息を吐いて笑った。


「そんな暗い顔するなって。昔話だよ、昔話」


…うそ。


廉くんはまだ乗り越えられていない。


ずーーっと自分を責め続けている。


ずっとずっと、十字架を背負って生きている。
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