「先生」って呼ばせないで
「廉くん…。私、力になりたい」


廉くんが前に向けるように、助けになりたい。


「必要ない。どこを探しても夏音の代わりはいないから」


キッパリ言い切ったのは、1ヶ月しか続かなかった彼女たちのことがあるからなのかな。


「私は夏音さんの代わりになるつもりはないよ。ただ、一宮乃蒼として廉くんにパワーをあげたいの。笑っててほしい。ただそれだけ」


夏音さんの代わりはいない。


そんなの当たり前だ。


7年付き合ってて、結婚するつもりだった相手だもん。


そう簡単に代わりがいるはずない。


だけど、私は私として廉くんの心を癒やす。


「もう決めたことだもん」


「はぁー…。のんちゃんらしいな。じゃあまずは、次のテストで平均点ぐらいは取ってもらおうかな。そうしたら俺は元気になる」


「もうっ!そういうことじゃないのにぃ」


なんでそう煙に巻くようなことを言うかなぁ。


まったくもう…。


「ははっ!冗談だって。ありがとう」


頭を撫でる…というより、髪の毛をくしゃくしゃっとされて、前髪が顔にかかる。


「ちょっとっ!やめてよっ!」


「平均点じゃなくて、80点な」


「えぇ!?無理だよ!」


「俺にパワーあげたいんだろ?がんばれよ」


「もーー!!」


思ってた展開と違うっ!


「のんちゃんはそういうのでいい。そういう素ののんちゃんのまま接してくれるだけで十分だから。変に意気込まなくていいよ」


今度は優しく頭を撫でて、乱れた髪を直してくれた。


…ちょっとキュンとしちゃうじゃん、そんなことされたら。


まぁ乱したのは廉くん自身なんだけど。


「とにかく。俺は過去に彼女を見殺しにした人間だし、その死に対して迷惑だって思ったような醜い人間だからさ。あんまり俺に期待しないでな?」


そう、力無く笑う廉くんに何も言えなかった。


廉くんの心の傷は深い。


私が廉くんを助けたい。


こんな私にできることはないかもしれないけど、それでも、精一杯のことはする。


「次のテスト、80点目指して頑張るね」


そう言うと廉くんはふっと笑ってくれた。
< 122 / 129 >

この作品をシェア

pagetop