「先生」って呼ばせないで
教室掃除が終わりかけた頃、廊下からキャアキャア騒ぐ声が聞こえてきた。
もしかして…。
「乃蒼ちゃんいる?」
廊下からピョコっと顔を覗かせたのは遥斗先輩。
私を名指ししたせいで悲鳴がさらに大きくなる。
「あ、えっと、もう少しで掃除が終わるので…」
どうしよう、遥斗先輩と仲が良いことが知られてしまった…。
また嫌がらせされたらどうしよう…。
バクバクしながらゴミをまとめていると、近くに廉くんが来てくれた。
チラっと見上げると、いつもと変わらないクールな表情の廉くんと目があった。
「ゴミ捨ては柏木、よろしく」
「了解っすー」
特に何か言うわけではなかったけど、なんとなく廉くんが近くにいてくれるだけで安心する。
理由はわかんないけど。
バクバクしていた心臓も次第に落ち着いてきた。
「一宮って遥斗さんと仲いーの?」
柏木くんの何の気なしの質問に、女子の視線が集まるのを感じた。
「あ…うーん…仲…」
仲良くないって言うと遥斗先輩に失礼だけど、仲良いって言って妬まれるのも怖い。
なんて答えよう…。
「そんな話どうでもいいだろ?お前は早くゴミ捨てに行け。他の人はもう終わっていいぞ」
廉くんが助け舟を出してくれたおかげで助かった…。