「先生」って呼ばせないで
残らせたのは自分なのに驚いている様子だ。


「なんで私にだけ頼むんですか。梓にも頼めばもっと早く終わらせられるのに」


「あぁ、ごめんごめん。一宮が1番頼りになるから」


「…ふーん…」


頼られるのは悪い気はしないけど。


少し不服に思いながらも帰る準備をして、鞄とラケットを担ぐ。


「夜遅くなっちゃったし、車で送ってくよ」


「え、いいですよ。全然大丈夫なんで」


「いいっていいって。この辺りで不審者情報出てるから危ないし」


不審者かぁ…。


それはちょっと怖いかも…。


「じゃあお言葉に甘えて、いいですか?」


家まで歩くと30分くらいかかるからラッキーだ。


雑用係も悪くないなぁ。


なーんて、このときの私は呑気なことを考えていた。


男の車に無警戒に乗り込むことがどんなに危険なことなのか、気づいていなかったんだ。
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