ちびっこ聖女は悪魔姫~禁忌の子ですが、魔王パパと過保護従者に愛されすぎて困ってます!?~
思いのほかこの制度が支持され現在の領地体制が確立したわけだが、エヴラールとしては自身が抱いていた長年の不満を魔王の権限を以って解消しただけ。
覇者が戻るのなら、この体制の維持を望むことはない。
「……悪いが俺も、もう上に立ちたいとは思えなくてな。それよりは〝大魔王〟という肩書きすらも捨てて、ただの父親としてルイーズの成長を見守りたい」
グウェナエルの声には、ほんのひと欠片も迷いがなかった。
きっとどれだけ説得しても無駄なのだろうと悟る。
昔からそうだ。このお方は一度決めたことを覆さない。いかなるときも己の定めた選択は最後まで貫き通す。そうして魔界の覇者の座にまでのぼりつめた。
ゆえにこそ、愛したミラベルを守ると誓ってしまった彼は、たとえ封印されることとなっても彼女を守るための選択をしたのだろう。
わかっていた。
嫌味なくらい、いっそ恨みたくなるくらいにわかっていたからこそ、エヴラールは足元がぐらつくような感覚を覚えて歯を食いしばる。
「それよりも──エヴ。俺からもひとつ聞きたいことがあるんだが、いいか」
話題を変えたかと思えば、突然真剣な眼差しを向けてきたグウェナエル。
ハッとして彼を見る。夜闇を背後に、燃えるような紅蓮の瞳に鋭く射抜かれた。
「おまえ、その目……見えてないな」
一瞬、呼吸が止まった。
「……いつから、お気づきに?」
「最初からだ」
まさかこのタイミングで〝目〟について指摘されるとは思っていなかった。
それどころか、気づかれていることすら想定外だった。最初から。何故。そんな素振りはいっさい見せていないつもりだったのに。