ちびっこ聖女は悪魔姫~禁忌の子ですが、魔王パパと過保護従者に愛されすぎて困ってます!?~
若草の色彩に戸惑いが混じりこみ、複雑な色になって揺れる。
「そうだ。自分ができることとできないことを、はっきりと見定めろ。己の手に負えないことから目をそらすな」
「っ……」
「自分ひとりでなにかを成し遂げようとする心意気は立派だが、そうして周囲を疎かにすると必ず〝零れていくもの〟がある。いつの時代も、王というのはその〝零れていったもの〟に足をすくわれるんだ。心に留めておけ」
おそらく、リュカが理解するにはまだ難しいだろう。だが、せめてこうして伝えておけば、なにかの拍子に心が覚えていてくれるかもしれない。
そんなグウェナエルの思考を正しく汲み取ってくれたのかはわからないが、リュカはしばし沈黙すると、こくっとしっかり顎を引いた。
「ありがとう、ございます。あの、また……ルゥ、見に行ってもいいですか?」
「ああ、もちろん。見舞ってやってくれ。きっとあいつも喜ぶ」
「はい。……あの、ぼく……」
「どうした?」
「っ、いえ。なんでもないです。……おやすみなさい」
リュカはどこか複雑そうな表情でぺこりと頭を下げると、部屋へ入っていった。
(ふむ。あいつは自分の思いを口にするのが、つくづく苦手なようだな)
グウェナエルはひとつ息を吐き、いましがた歩いてきた方向とは逆へ踵を返す。
歩き出した直後に「おい」と声を向けた先は、すぐそばの曲がり角だ。
「……お気づきでしたか」
「いくら息子のこととはいえ、立ち聞きとは趣味が悪いな」
「申し訳ありません。それと……リュカのこと、ありがとうございました」