ちびっこ聖女は悪魔姫~禁忌の子ですが、魔王パパと過保護従者に愛されすぎて困ってます!?~

「リュカさま? いえ、来ておりませんが」

「っ……なんてことだ」

「どうなさったのです? リュカさまにいったいなにが……」

 ディオンは当惑した様子で聞き返す。

 だがしかし、エヴラールは茫然としたように額を抑えたまま答えない。ひどく取り乱しているようで、ルイーズはなんとも嫌な予感を覚えながら彼を呼んだ。

「……魔王、さま。リュカ、どしたの?」

「っ……ルイーズさま……。リュカが、失踪しました」

「え……どういう、こと?」

 失踪。つまり、リュカがいなくなった。いまいちピンとこないまま、けれどとにかく大変な事態が起きていることだけは理解する。

 室内の空気が重く張り詰め、ディオンとベアトリスも厳しい顔を見合わせた。

「失踪とは……お部屋にいらっしゃらない、と?」

「ちがう。部屋だけではなく、城のどこにもいないんだ」

 エヴラールからは、どうしようもない焦燥が伝わってくる。まずまちがいなく〝手ちがいだった〟で終わらせられるような事態ではないのだろう。

「私は今日公務で外出していて、さきほど帰ったばかりだったのだが……っ」

 ──詳しく話を聞いてみれば、どうにもこういうことらしい。

 公務から帰ったエヴラールは、夜も遅いため、とにかく入浴を終えて早々に休むつもりだった。だが、そのまえにリュカの様子でも見ておこうと思い立ち、湯あみの前に息子の部屋へ向かったという。

 しかし、室内のどこを探しても、リュカの姿がない。最初は水でも飲みに行ったのかと思ったが、なんだか嫌な予感がして、エヴラールは城中を探し回った。
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