ちびっこ聖女は悪魔姫~禁忌の子ですが、魔王パパと過保護従者に愛されすぎて困ってます!?~
「はい。しっかり掴まっていてください」
先日、ザーベスの茎を断ち斬ったことでどろどろに溶けてしまったディオンの剣。
あれ以来、茎を斬るときはディオンの闇魔法を使うことにしていた。
聖女が光に属する聖光力を行使する一方、悪魔は闇に属する力──闇魔法を用いるのである。闇魔法の用途は多岐に及び、ディオンによればその者が包有する魔力量などによっても使える魔法は変わってくるらしい。
その点に限って言えば、ルイーズは悪魔の血を半分持っているはずなのに、なぜか闇魔法を使うことができないのだけれど。
(それにしても、パパ……こんなとこに、封印されてるの?)
人どころか、あらゆる生物が立ち入らぬ地。
周囲は毒素がはびこるばかりで、陽の光もなければ月も出ない。ただただ雷鳴が轟く空の下に何年も封じられていると考えたら、ひどく胸がきしんだ。
狼の姿をしたディオンに掴まりながら、ルイーズは抜群の視力を活かしてなにかそれらしきものがないか探す。
そうして毒の沼地区に食い込んでから、数刻ほど経った頃──。
ふいに、駆けていたディオンが「ん?」と怪訝そうな声をあげた。
勢い余って背中に乗るルイーズが転げ落ちないようにか、ゆっくりと速度を落としながら、ディオンはクンクンと鼻先を揺らす。
「どしたの、ディー」
「なにか……匂いがしました」
「匂い?」
「はい。生き物の匂いです」
「いきもの」
ディオンが向いた方向へルイーズも目を凝らすと、数キロ先にすぐ匂いの根源を見つけた。しかし瞬時にハッと息を呑んだルイーズは、ディオンの首元を握る。
「……ディー、あっち。走って」
「え?」