ちびっこ聖女は悪魔姫~禁忌の子ですが、魔王パパと過保護従者に愛されすぎて困ってます!?~

「あっち、人が倒れてる」

 嗅覚では負けるが、視力はディオンよりもルイーズの方が幾分か優れている。

 その目が捉えたものは、なんと沼地近くに倒れる〝人間〟の姿だった。

「……よりにもよって、人、ですか。たしかに、この匂いは悪魔のものではないなと思っておりましたが……。近づかない方がよろしいのでは?」

「ルゥはだいじょぶだから。はやく、走って」

「っ、承知しました。ですが、危険だと判断したら指示を仰ぐまでもなく引き返させていただきますからね!」

 不安を綯い交ぜにしながら言い置いて、ディオンは勢いよく駆け出した。やがて近くまでたどり着くと、彼はやや離れた場所にルイーズを降ろし、鋭く目を細める。

「自分が様子を見てきます。姫さまは、この場から動かないでくださいね」

「うん、わかった」

 ディオンは獣耳をも消した完全体の人の姿に変化していた。

 警戒しながら倒れている者へと近づいていく従者に、ルイーズも不安を募らせる。

(ルゥは、ママ以外の人間に会ったことないけど……。何者なのかな)

 こんなにも熱帯にもかかわらず、その者は前開きの外套に身を包み、深々と頭巾を被って倒れていた。そのせいで、遠目からでは性別も容姿もわからない。

 ディオンがその者の容態を確認する様子を、ルイーズは固唾を飲んで見守る。

「ディー? ……死んじゃってる?」

「いえ、幸いにもまだ息はあります。とても弱々しいですが」

「生きてるのっ?」

 こんな地獄にも等しい場所で、ひとり倒れている人間だ。正直なところ、すでに息絶えている可能性が高いと覚悟していたルイーズは、従者の言葉に目を輝かせた。
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