ちびっこ聖女は悪魔姫~禁忌の子ですが、魔王パパと過保護従者に愛されすぎて困ってます!?~
──ありがとう。
そう口が動くのを見届けた直後、彼女と娘は転移魔法により姿を消した。
「……まったく。それは俺の台詞だというのに」
漆黒に染まった前髪をかきあげながら、ふっと笑みを滲ませる。
(俺もおまえに出逢えて幸せだった。ありがとう、ミラベル)
闇に溶ける外套をなびかせ、星が瞬く夜空を見上げれば、不思議と清々しい風が心を吹いていった。自然と肩の力が抜け、穏やかな気分で追手を迎える。
「おまえたちのご希望通り、俺は大人しく封印されてやろう。──だが、あいつらに手出しはさせん。悪いが少々記憶をいじらせてもらうぞ」
パチン、と二本の指を合わせ鳴らし、ふたたび魔法を展開させる。
(もしもこの魔法が〝人〟と〝悪魔〟を含めたすべての生き物にかけることができたなら、きっとちがう未来があっただろうにな)
だがしかし、これは古に葬り去られた禁忌魔法だ。膨大な魔力を消費するうえ、グウェナエルにもどんな反動がくるかわかったものではない。たとえ〝魔界の覇者〟と謳われた男でも、この追手たちを手にかければ、ただではすまないだろう。
だとしても、躊躇いはなかった。奴らに、ミラベルとルイーズが〝すでに亡き者となった〟と思わせることができればそれでいい。
「……ミラベル、ルイーズ。おまえたちの未来にどうか幸あらんことを」
愛する家族を守れるのならば。
たとえ、己を犠牲にすることになろうとも。
たとえ、己が導き守ってきた世界を捨てることになろうとも。
「さあ、終わりだ」
禁忌魔法を盛大に展開しながら、大魔王グウェナエルは不敵に笑った。