ちびっこ聖女は悪魔姫~禁忌の子ですが、魔王パパと過保護従者に愛されすぎて困ってます!?~
──全長五メートルにも及ぶ巨大な毒花、ザーベス。
地名ともなるほど、この地は端から端までザーベスで埋め尽くされている。
ルイーズの知識的に喩えれば、茎部分はチューリップで、花の形はハスといったところだろうか。しかし、天に向かって長々と伸びる茎はいっそ黒に近い紫色で、くすんだ赤の花弁はまるで毒林檎のよう。見ているだけでゾッとする色味だ。
(これじゃあ、進んでるのか戻ってるのかもわかんないし)
いくら進んでも大地に跋扈するザーベスが途切れることはなく、延々と同じような場面が続く。どこまでも、どこまでも。果てしなく。
ちなみにこの状況が、すでにもうひと月ほど続いている。
「ねえ、ディー……ほんとに、パパはここにいるのかな」
「陛下……大魔王グウェナエルさまがザーベス荒野に封印されている、という話はあまりにも有名ですが。だからといって、この地に立ち入る者がいない以上は、決して信ぴょう性があるわけではないのですよね」
ルイーズたちの目的は、この地のどこかにあるはずの大魔王グウェナエルの封印場を見つけ、彼の封印を解くことだ。
しかし、現時点でそのゴールはまったく見えてこない。まさに途方に暮れるしかない状況のなか、さらに追い打ちをかけてくるのは、この劣悪な環境だった。
「ともかく、一度休憩いたしましょうか。姫さまの顔色も優れませんし」
心配そうに告げたディオンは、直後、淡い青の光に包まれた。身体がふわっと浮くような感覚のあと、不安定だった姿勢が一気に楽になる。
同時にもふもふの感触がなくなって、彼が完全に魔獣の姿から人へ変化したことを悟った。