ちびっこ聖女は悪魔姫~禁忌の子ですが、魔王パパと過保護従者に愛されすぎて困ってます!?~

「こちらに、ということは……魔界はもうよろしいので?」

「俺はかつて、魔界より愛する者──それも〝人間〟を選んだ裏切り者だぞ。魔界が破綻し崩御しかけているならまだしも、現状問題なく成り立っているなら、いまさら俺の出る幕はないさ。俺にはもう守らねばならんものもあるしな」

「……なるほど。承知しました。陛下のお心のままに」

「その〝陛下〟というのもやめろ。大魔王という階級も捨てたいんだ、俺は」

 悪魔階級は、古より根付いた概念、文化だ。

 悪魔である限り、この世に生がある限り、そう易々と捨てられるものではないことはグウェナエルとてわかっている。

(少なくとも魔界を支配する者ではなくなった以上、配下でもない者に〝陛下〟と呼ばれるのは筋が通らんだろ)

 そんなグウェナエルの意思を察したのか、ディオンは苦笑しながら了承した。

「ならば、親しみを込めて〝グウェンさま〟とお呼びしても?」

「ああ、かまわん」

「グウェンさまも、よろしければディーとお呼びください」

「いや、それは遠慮しておく。あまりおまえと親しくなりすぎると、ルイーズに変な嫉妬を向けられそうだろう。嫌われたら困る」

 ルイーズは、ディオンに対してそれこそ全面の信頼を置いている。

 誰にも脅かされることのない、不可侵的存在。

 まだ幼く心も身体も完成しきっていない彼女にとって、ディオンの存在自体がなによりも強固な地盤であり、剣であり、盾なのである。

 それはある種の〝軸〟と言ってもいい。

(とりわけ母親を失ったばかりで不安定な状態だからな。俺がディオンを支配しているように見える様子はあまり見せない方がいい)
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