愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
(成美には優しくするさ。嫌われたくないからな。どろどろに甘やかして俺なしでは生きられないほど愛されてみたい。だがビジネスに優しさは不要。俺も父さんのように冷徹にならなくては)

目の前の社員たちの強ばった顔と、心から夫を信頼しているような妻の顔を脳内で比較して、朝陽は薄く微笑んだ。

エレベーターは朝陽だけを乗せたまま再び上昇し、五階に到着した。

この階には応接室と秘書室、大小ふたつの会議室と、社長を含めた取締役六人の執務室がある。

社長は藤江家の血縁ではなく、五年前に他会社から引き抜かれて入った人だ。

名の知れた商社や証券会社での重役経験があって、大層な経歴を持っているが実力もやる気もない。

実際の裁量権は朝陽が握っており、社長を解雇して自分がその座に収まった方が無駄がないと考えた時もあったが、まだその時期ではないと判断した。

残念ながら社長が若すぎるとベンチャー企業と思われてしまうのか信頼されにくく、他社との取引で優位に立ちづらい。

そのため六十歳を越えたお飾りの社長はいた方がいいのだ。

エレベーターを降りると廊下に早足の靴音を響かせ、奥の渋い木目のドア前に着いた。
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